笹島喜平木版画 「初期風景画」選
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初期風景画
30歳の頃、平塚運一の版画講習会で単純・簡潔な黒白木版画にひかれて版画を制作するようになったが、そのほとんどは風景画であった。光と陰の明暗、深々とした森、樹々の葉づれの音、風など、デリケートな詩情を画面で表現している。その頃の心境を次のように記している。
閑さや岩にしみ入蝉の音 (芭蕉『奥の細道』より)
昭和12・3年頃の真夏であった。山形県の立石寺に詣でた時である。午後の烈しい日射しの参道が、やがて鬱蒼たる杉木立の中に入ったところで、一息して私は立ちどまった。折りから降るような蝉の声は、じーんと岩にしみ入り私の胸にも深く喰い入るようであった。森閑は蝉しぐれによって一層静寂となり、身心がきよめられるように感じた。………体験、感動、その表現との一体化が、十七字のなかに、みごとに的確に定着されているように思われ、写実とはこれだ、とわけもなく感激したのであった。その時の感銘が縁となって芭蕉の俳句を味わい、その文集と去来抄を読むようになった。そして日本的な象徴の上に立つ写実追求の情熱が、そこからわきでたのだともいいえる。(1965年『具象』5号)
◎ これらの作品は2006年10月に東京の或る個人コレクションに収蔵されました。